薄熙来裁判、習体制存続の戦いに発展
(2013年8月23日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
中国の習近平国家主席は今年初めに汚職の取り締まりを宣言した時、中国を支配する共産党は官僚組織の
下っ端の「ハエ」のみならず、大物の「トラ」も追い詰めると説明した。
共産党は22日、薄熙来被告の裁判の初公判をもって、これまでで最大の獲物をお披露目した。
薄被告は中国で裁判にかけられる実力者としては、毛沢東夫人をはじめとする四人組が30年以上前に証言
台に立って以来、最も地位が高かった人物だ。
かつての独裁者の恐ろしい妻のように、薄被告もけんか腰で、ある証人を「狂犬」「完全に堕落した詐欺師」
などとけなした。英国人を殺害した罪で執行猶予付きの死刑判決を受けて服役している妻も、証人として薄
被告に不利な証言をする予定になっている。
だが、この裁判の根本的な意義は何なのか。習主席はなぜ、薄被告が逮捕され、すべての役職を解かれてから
18カ月もたった今になって裁判を開くことにしたのだろうか。
■公判の状況を異例の公開
「習と新政権は、経済が減速し、すべての人に批判されているため、ひどく心配している」というのが、元
中国軍高官の息子で薄被告と一緒に育った人物が本紙(英フィナンシャル・タイムズ)に語った説だ。
「薄はもう死んだトラなのに、なぜ今、裁判にかけるのか。指導部は大衆からの支持を高めるために、トラの
皮を見せる必要があるからだ」
インターネットを使い事実上リアルタイムで裁判の進行記録を公開するという驚くべき決断は、プロセスの
正当性を示そうとする試みだが、初公判での薄被告の爆発はその努力をふいにする結果になるかもしれない。
収賄と横領の自白を強要されたとする薄被告の主張は、あらかじめ定められた判決に伴う刑罰を和らげる助け
にはならないが、不公平なことで悪名高い中国の司法制度の面目を失わせることになる。
政府は明らかに景気減速について懸念しており、今、規則に従わない薄被告を片づけることで、昔ながらの
見せしめ裁判で一般大衆の気をそらそうと思っている可能性は十分ある。
■政策、生い立ちに類似点
皮肉なことに、習氏の政策目標は、薄被告が第2の故郷である重慶――オーストリア並みの広さにカナダ並みの
人口を擁する直轄市――で大人気を博すことになった政策と驚くほどよく似ている。
習氏は今年3月に国家主席に正式就任してから、中国の政治で言うところの「左」にかじを切った。
その後相次ぎ出した通達は、重慶で大きな支持を得た、共産主義のノスタルジーに訴える「赤い復興主義」運動
とよく似た響きを持つ。
習氏は「大衆路線」教育キャンペーンを掲げたほか、国際情勢に対して自己主張の強いアプローチを取り、
マルクス主義のイデオロギーを強調する一方、民主主義や人権、憲法政治、言論の自由といった「西側」の
概念はすべて禁句であり、議論してはならないと宣言した。
習政権はまた、市民は中国での市民社会構築を助け、公共問題にもっと関与すべきだということを平和的に
唱えたとして少なくとも25人を逮捕している。
こうした策はどれも、薄被告の指揮下の重慶市でも場違いではなかったろうし、習氏の汚職撲滅キャンペーンで
さえ、薄被告が重慶市で実施した汚職撲滅運動をほうふつとさせる。
もしかしたら、この2人がおおむね同じ政策目標に行き着いたのは、意外ではないのかもしれない。
どちらも革命を担った共産党幹部の下に生まれ、指導部のエリートが住む北京の邸宅で育った。
父親はどちらも1960年代に党からパージされた。
2人は究極の特権階級から社会の底辺へと追いやられた。文化大革命で重労働を強いられた後、名誉を回復、
政治的キャリアを築くために地方に送られた。習氏も薄被告も国家主義を標榜しているにもかかわらず、
中国の教育制度よりも米国の教育制度を信頼しているようで、どちらの子供たちもハーバード大学で学んだ。
どうやら今、「革命の子供たち」は自分たちを生んでくれた体制の存続を確実にするために、互いを食い
合うことを余儀なくされているようだ。
By Jamil Anderlini
→ http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM23041_T20C13A8000000/?dg=1
薄熙来被告の裁判