魔の桜花賞ペース

競馬

先日の桜花賞についての所感を、日刊競馬の飯田正美氏がメルマガで
書いています。
まさにその通り!と膝を叩きたくなるような内容です。
無断で転載するのは申し訳ありませんが、それでも競馬ファン
心情を突いた内容ですので、ご覧下さい。



かつて、「魔の桜花賞ペース」なる言葉があった。
 阪神の馬場の改修が行われる前の、2006年までの桜花賞の舞台はおむすび
状で、内外の有利不利が極端な「不公平馬場」だった。だから、外枠を引い
た馬は外々を振り回されないようにと、テンからダッシュを利かせていく。
有利なはずの内枠の馬も、のんびり構えているとすっぽりと内に包み込まれ
てしまいかねず、これまた前半でかなりの脚を使わされることになる。
 出走するメンバーは、いずれもスピード自慢の三歳牝馬。これが二十何頭
(昭和62年からはフルゲート18頭)もの馬がスタートから先を争うのだから、
当然前半のペースは速くなる。だから、当時の桜花賞は逃げ切りはもちろん、
先行して粘り切るのも至難の業だった。この桜花賞特有の超ハイペースを、
誰が呼んだか「魔の桜花賞ペース」という。
 散る桜の花びらに、心急かされるように先を争ったスピード自慢の乙女た
ちは、「魔の桜花賞ペース」がたたり、直線では一頭、また一頭と脱落していく。
 華やかさと哀れさ…。昔の桜花賞のゴール・シーンには、先頭でゴール板
を駆け抜けた優勝馬から、最後の一頭がゴール・インするまで、それぞれに
ドラマが、感動があった。

「つまんない競馬を見せられちゃったね」
 先週の桜花賞のテレビ観戦の後、記者席では白けた空気が漂った。誰もが
不愉快そうな顔をしている。それは、馬券を取れなかったという理由だけで
はない。みんながみんな、見たくないものを見せつけられた思いがしたためだ。
 2007年に生まれ変わった桜花賞コースは、内外の不利のない素晴らしいコ
ース。前半のペースも、一頭が暴走した昨年を除けば、千通過58秒5から
59秒8までの、どの位置からでも力を出し切れる平均的な流れが支配する
ようになった。だから、ダイワスカーレットブエナビスタアパパネ、ジ
ェンティルドンナ、ハープスターなどが実力を存分に発揮し、後の名牝への
地歩を固めることが出来た。

 しかし、レースは生き物。ある日、とつぜんその魔性を現す。
 今年の桜花賞は、[前半千通過62秒5−上がり33秒5]。前後半の4ハロ
ンでいえば、前半が後半より4秒遅い超スローペース。「魔の桜花賞ペース」
が云々されていた当時に比べ、前半と後半がちょうど入れ替わった形。
 逃げた岩田=レッツゴードンキが後続を4馬身引き離す圧勝だったのも納
得。この超スローペースを後方でのんびり構えていた人気馬がそろって凡走
したのも、これまた納得のラップ。
 納得できないのは、超スローが分かっていながら、どうしてのんびりと後
ろに構えていたのかということだ。未勝利や五百万の下級条件戦ではスロー
を見越して何かがまくりをかけるペースだが、桜花賞ともなるとおじけるの
か、早めに動き出す騎手は皆無だった。
 3番人気4着クイーンズリングの自身の踏んだラップは、[63秒1−33秒
7]、4番人気6着アンドリエッテは[63秒7−33秒2]、6番人気7着キャッ
トコインは[63秒5−33秒4]、1番人気9着ルージュバックは[63秒4−33
秒6]、2番人気ココロノアイは[63秒3−33秒7]となっている。
 良馬場の桜花賞で、自身千通過63秒ぐらいのラップを踏んで差し切れる
と思っている騎手は、果たして一人でもいるのだろうか?
 見たくない競馬を見せられてしまった。
 週初めから何度もビデオリプレイで検討し、調教ビデオを観て検討し、万
感の思いを込めて予想したレースがこの結果。

 「魔の桜花賞ペース」とは、以前とは真逆に、「超スローペース」を意味
する。このことだけが、今年の桜花賞で得た収穫だった。



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