シナ人の青春(長文読む価値あり)

競馬

【中国】「日式アニメに出てくる『部活』って、ほんとは存在しないよね?」
中国の若者には、放課後の青春なんてファンタジー



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日中関係が微妙なこういう時期、AKB48が好きだっていう若い中国人は
すごくプレッシャーを感じるわけですよ。ほら、だって、彼ら一人ひとりは
自称『プチ日本評論家』なわけですからね。板挟みになって、正直つら
かったと思います」



あれは9月中旬、日経ビジネスオンラインから「えっ、『日本は中国と戦争
したがっている』って?」の執筆を依頼されたころだ。尖閣問題で反日
デモが激しく燃え上がる中、以前取材を通して知り合った王一凡(29歳)
と再会した。彼は、私が王に会った目的(尖閣問題についての意見)とは
一見、無関係かに思える内容をいきなり話し始めた。
その話とは、「AKB48はなぜ、中国でこんなにも人気があるのか?」に
ついてである。
王は以前、中国で雑誌記者をしていたことがあり、日本のオタク文化
非常に詳しい。



「中国でAKB48のファンは、百度(中国の大手ネットサービス)のBBS
ユーザーだけで約10万人、実際はもっといるでしょう。彼らは年がら
年中、ネットで好きなメンバーの情報収集をしたり、DVDを見たりして
いますよ。熱狂ぶりは日本人のファンに勝るとも劣らない。みんな
AKB48を通じて日本の文化を知り、日本について興味を持つように
なった若者たちです」



私は内心、その話と尖閣問題に、一体どんな関係があるのだろう? 
とぼんやり思いながらも、それを悟られないふりをしながら王の話に
耳を傾けていた。だが、次の瞬間から、王の声はだんだんと大きく
なっていった。
「僕らには青春も感動もなかったんです!」
「なんで私たち中国人が日本のAKB48に熱中するのか、日本人にその
理由がわかりますか? それは、僕たちの中学・高校時代には『青春』や
『感動』がなかったからなんです」



青春?
感動? 
一体なんの話が始まったのだろうか。



「地域によって異なりますが、多くの中国人は中学・高校時代に勉強した、
いや、させられた記憶しかないと思います。僕は天津の普通高校に通って
いましたが、例えば日本のマンガやアニメによく出てくるクラブ活動なんて、
全然なかった。高校時代は毎晩10時まで学校に残って勉強していたんです」



中国では、公式には私立の予備校や塾は認められていない。そのため、
生徒たちは学校に残って教師の指導にもとで受験勉強をする。その
傾向は(中国の受験制度で不利な状況に置かれている)田舎に行けば
行くほど強いという。寮生活をしている学生も多いので、夜12時過ぎ
まで教室に残ることもざらだそうだ。



念のため、北京や上海に住む大学生にも、彼らの高校時代について
聞いてみたが、王と同じように「夜10時か11時まで学校にいた」という
人もいれば、「そこまで遅くはないが、かといって、クラブ活動をやった
覚えもない」という答えばかりが返ってきた。



中には「クラブ活動があった」と答える人もいたが、よく聞いてみると、
それらは「英語クラブ」や「哲学研究会」のような「ほとんど勉強」であり、
部室でおしゃべりしたり(も)する日本の部活とはほど遠い。重点高校
(予算が優先的に配分されたエリート高)には日本の形態に近い
クラブがあり、そうした学校同士が省の大会などに出場するそうだが、
いずれにしても、それはごく一部の高校に過ぎない。



日本のように野球部、サッカー部、テニス部、吹奏楽部、演劇部といった
多彩なクラブ活動があり、強いチームになれば週末も猛練習するし、
弱いチームであってもそれなりに楽しく仲間と語り合いながら部活を行う、
といった光景は中国にはほとんど存在しないのだ。むろん、高校生の
頂点を決める「甲子園」(野球)や「花園」(ラグビー)のような伝統ある
全国大会もない。



つまり、学校に通う中国の若者の放課後は、学校に残ってひたすら
勉強するか、自宅(または塾や家庭教師について)で勉強するかの
二者択一。「中国の若者はとにかく勉強づけの毎日」(王一凡)なのだ
という。



(「中国出身の強いスポーツ選手もいるではないか」と思われるかも
しれない。中国代表としてオリンピックに出場するような若者は、幼い
頃にその才能を教師や政府によって見出され、養成コースのある
学校に通うため、普通高校には通わず、1日の大半をその競技の
練習に費やす。日本のように普通高校に通い、「普通の暮らし」を
しながらオリンピックに出場する選手は皆無だ)



「部活」って、ファンタジーでしょう?



クラスメートと学校の行き帰りにおしゃべりしたり、屋台やファストフードで
買い食いしたりする程度の「ささやかな楽しみ」はあっても、同級生とともに
真剣にひとつのスポーツを練習したり、勝利する喜びを分かち合ったり、
芸術作品をみんなで作り上げたり、といったような、“学生時代でなければ
できない経験”をほとんどせずに高校を卒業するというのだ。



それが、王のいう「自分たちには青春や感動がなかった」という話に
ようやくつながる。



「子どもの頃、中国のテレビで『スラムダンク』とか『タッチ』といった
スポーツアニメを見た中国人は『クラブ活動っていいなぁ』と思って
夢中になるのですが、同時に思うのは、『日本の高校生は、本当に
こんなに夢みたいな生活をしているの?まさか、嘘でしょう?』という
疑問です。私たちは日本との過去の戦争についてはいやというほど
勉強させられているけれど、素の日本人と接したことがほとんどない
から、今の日本人がどういう学生生活を送っているのか、全然
知らないのです」



絶句するしかない私に王は続ける。



「中には『嘘だ、こんなのはきっとアニメの世界だけだ』と真っ向
から信じない人すらいるほどです。
でも、やっぱり『自分たちも日本人みたいな青春時代を過ごしてみたい』
とも思うのです。
中国人も放課後、たまにスポーツくらいしますが、スポーツができたからと
いって女の子にもてるわけでも、いい大学に入れるわけでもない。
クラブ活動としてやっているわけではないから、スポーツはただの
暇つぶしです。勉強以外に特技があったって誰にも評価されない。
それが中国の価値観であり教育制度というものなのです」



私は王に「日本ではガリ勉タイプは持てない。むしろスポーツが
できたり、ひょうきんな人のほうが持てるんだよ」と話すと、彼は
目を丸くして驚いていた。



「恋愛禁止」はAKBだけじゃなく、中国の学校でも



中国の学校では恋愛も禁止だ。最近では大学生の恋愛は黙認
されているようだが、中学・高校では認められず、学校の帰りに
大通りをガールフレンドと手をつないで寄り道する、なんていう
ことも許されない。王によれば「私たちの両親はみんな文革世代
文化大革命時代に思春期を過ごした世代)であり、学生の恋愛は
ご法度。だから、自分たちの気持ちは両親にも理解されない」と嘆く。



こうした中学・高校時代を過ごしてきた中国の若者にとって、
アニメの世界だけでなく、生身の人間として「青春」や「感動」を
味わえる存在なのが、中国にはいない、AKB48や嵐といった
日本のアイドルたちなのだ。



AKB48は、いわずと知れた秋葉原発の「会いに行けるアイドル」。
遠い存在ではなく、いつも身近にいて、自分たち(ファン)とともに
成長を感じられるというのが“売り”だ。



大勢の仲間がいる中で、一人ひとりが歌や踊りをマスターし、
個性を磨き、いつかスポットライトを浴びたいと思って必死に努力
する過程は、まさに苦労してレギュラー選手に選ばれるクラブ
活動の過程に似ている。なかなか人気ランキングが上がらない
アイドルに対し、自分の境遇と重ね合わせてみたり、クラスメートの
女の子にほのかな恋心を抱くような気持ちで、「がんばれ〜!」と
応援する心情は、誰にでも理解しやすい。



2年前、本の取材のために北京で会った大学院生、張潔(24歳)は、
嵐の大ファンで、中でも二宮和也の話になると顔をぽっと赤らめる
ような女の子だったが、私には彼女の発言がとても印象的だった。



「ジャニーズのアイドルは顔がカッコいいだけでなく、小さい頃から
苦労して歌や演技を学んできて、内面を磨いているところがすごいな
って思います。私は彼らのまじめさや絆、礼儀正しさが好き。
ジャニーズのアイドルたちには、日本人ならではのよさが全部
詰まっているような感じがするんです」



微博(中国版ツイッター)などを見ていても、キムタクから亀梨和也
まで、ジャニーズアイドルの人気は非常に高い。「日本は気に
食わないけど、キムタクは好き」と公言する女の子も少なくない。
多くの中国人が評価しているのは、彼らの顔や歌唱力よりも
人間性や内面だという点だ。先輩後輩の上下関係を重んじ、
規律正しく、一生懸命に努力する姿は、どこか中国の儒教
精神や、中国が本来持っていた道徳観に通じるところがあるの
かもしれない。



そういえば、王がおもしろいことを指摘していた。韓流アイドルの
少女時代とAKB48との違いだ。どちらも中国で大人気なのだが、
両者のファンはその傾向から、真っぷたつに分かれるという。



「少女時代が好きっていう人は、足が長い、顔がきれいという
見た目重視派が多いですね。つまり表面的な美しさに惹かれる人。
彼女たちは全員が全員美人で、似た顔をしています(笑)。でも
AKB48が好きな人はそうじゃない。どこにでもいそうな普通の
女の子なんだけど、一人ひとりがみんな違う。ひたむきに努力
する過程に共感する人が多い。つまり内面的な部分に惹かれる
ということ。韓国が中国の競争社会と同じくナンバーワン重視なら、
日本はオンリーワンに価値を置いているということです」



「僕は韓国(少女時代)よりも日本(AKB48)が発信するコンテンツのほうが、
ソフトパワーという点で優れていると思います。
それは、日本人の考え方が体現されたコンテンツだからです。
なぜ、日本政府はこんなにいいコンテンツがあるのに、それをもっと
世界に向けてアピールしないのだろう?と 不思議に思います。
そうすれば、日本人が世界からもっと理解されやすくなると思うのですが」



なるほど。そういうものの見方があったのか、と思わず私は唸って
しまった。これまでそんなことは考えてみたこともなかったからだ。



「青春」のありがたみを我々は知らない



王いわく、中国の受験勉強は表層的で、丸暗記すればいいという
無味乾燥なものだが、もともと文武両道は、司馬遷の「史記」にも
登場するように中国が発祥だという。勉強だけでなく、身体も鍛える
ことによって、健全でバランスの取れた人間として成長できる。
しかし、今の中国からそうした考え方は失われ、ただひたすらに
「勝ち組」になるための詰め込み教育が行われている。そんな中を
過ごしてきた若者が自然と追い求めるのは心の空白部分。つまり
「青春」や「感動」なのだ。



日本人からしてみれば、ことさらに堂々と「青春」と呼べるほど
立派な学生時代は送ってこなかったよ、と思う人も多いと思うし、
こそばゆい、時代遅れな言葉のようにも聞こえるが、彼らが追い
求めているのは、まさにそういう純粋なものなのだ。



日本人が特別「ありがたみ」も感じないまま過ごしてきた日々を、
彼らはのどから手が出るほど欲している。それが中国という国で生きる
若者たちの厳しい現実だ。中国人が本当の日本人の姿を知らないまま
尖閣問題で暴徒化するように、日本人も中国人のそうした心情を知ら
ないのだ。



王はいう。



「私たちは自分たちが経験できなかったものを、日本のアイドルや
アニメを通して学ぶことができた。同時に、そういうものを通して、
日本人の考え方や日本文化も理解できるようになった。だから、
日本が好きになったんです。尖閣問題が起きたときにも、本当の
AKB48ファンはみんな冷静でしたよ。一方的に日本を非難したりは
しなかった。それは、ひとりでも生身の日本人アイドルを知り、
彼女の言動を通して日本という国を見ているからなんじゃない
でしょうか」



来年にはAKB48の中国版ともいえるSNH48が始動するという。
いよいよ日本発のコンテンツが海を越えるのだ。日本からは
宮澤佐江、鈴木まりあが移籍し、中国人メンバーに加わって
活動する予定だ。



王がいうように、日本政府は独自のコンテンツをもっと活用する
ことで、少しでも中国側の理解を求めていくことはできないだろうか。



ボタンの掛け違いを直していくためには、ソフトパワーは大きな
威力を発揮してくれるかもしれない。王の話を聞いていくうちに、
AKB48がなぜ中国でそんなに人気があるのかを話した、彼の
真意がようやくわかった気がした。



さてと、熱い中国茶をもう一杯、いかがですか?



□ソース:日経ビジネス
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20121101/238872/



長文読了ごくろうさまです。
シナの青春群像など初めて知りました。
日本に生まれ育った幸運(?)をかみしめる次第です。
だって、小学校・中学校・高校と、部活のない生活など
今思い出しても、考えられませんもんね。
楽しい思い出、苦い思い出などなど、アルバムと共に
この胸の奥にしまっています。