清水成駿氏の憂い

競馬

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SUPER SELECTION メールマガジン清水成駿の競馬春秋(09/06/11)」

【1000勝ジョッキーたちの進路】


ジョッキーの大台といえば1000勝。
かつて1000勝をすれば調教師試験の学科免除、自動的に一国一城の主たる
調教師への道が開けた。
が、現在、現役の1000勝ジョッキーが10名。これに948勝で最年長の
安藤勝己が加われば、現役の大台ジョッキーが驚くなかれ11名に膨れ
上がることになる。


 
となると調教師の優遇措置が廃止されたから、現役の1000勝ジョッキーが
これほど膨れ上がったのだろうか?

 
そうではあるまい。

 
50歳を目前にして調教師になったところで、今の厩舎制度でやりたいことの
いくつができようか。仮に運良くそれができるようになった頃には定年を迎える。
あわせて低迷する今の経済事情も大きい。
いくら勝てるかではなく、果して馬房を埋める競走馬を確保できるかが切実な問題。
不況下で個人馬主が激減。今は一握りの大手ホースクラブに頼らなければならない現状。
トップ・ジョッキーの目に調教師という職業がひどく色褪せて映るのは仕方あるまい。

 
まして人を使うことを得手とするジョッキーはきわめて稀。土台、騎手は個人技である。
連携プレイをしようものなら手が後にまわる。

 
そのうえ調教師は個人事業主でありながら社員(調教助手・厩務員等)との雇用関係は曖昧。
かつてのような徒弟社会であれば、あうんの呼吸も通用しようが、組合に守られた社員は
よほどのことなければ馘首できず、反対に社長たる調教師が気に入らなければ他厩舎への
異動も決して難しくない。
社長が社員を選ぶのではなく、社員が社長を選ぶ逆転社会。
まして、開業時は馬も人もほとんどが前厩舎のお仕着せ。
こういう状況で理想を構築、メリット制を勝ち抜くにはよほどの覚悟と資金力が必要だろう。

 
調教師と厩務員・調教助手の関係は社長と社員のそれではない。
かつての徒弟時代には「譜代」とか「子飼い」とかいう濃密な関係もあった。
が、今は戦国時代でいう「寄騎」の関係。寄騎とは織田信長キ下における秀吉と黒田如水
竹中半兵衛の関係であり、上官と下官の区別はあるが主従関係はない。

 
ある厩舎が廃業に追い込まれた象徴的な例を紹介しよう。

 
A厩舎は20馬房でこれまで個人馬主に頼ってきた厩舎。社台はおろかマイネル等のクラブ馬も
扱ったことがない。が、この景気である。馬が入らないのはまだしも預託金の滞納も増える。
当然、給与も支払えない。といって古くからの馬主に強い請求もできない。
良く言えば師は人が善すぎた。反対にいえば経営者失格ともいえなくない。
そんな人の善い調教師だからこそ仕事にうるさくもなく、老いて基本俸給が高い厩務員には
実に居心地のいい環境。

 
厩務員Bは40年以上のベテラン。が、今はかつてのヤル気も失せ、体も思うように動かない。
怠け者と言われても仕方ない。すでに持ち馬を走らせてどうこうという欲はない。
ともかく一番楽で居心地のよい厩舎がいい。最初はC厩舎。が、定年で解散となった。
D厩舎に映る。さすが新進気鋭の調教師だけに担当馬もそれなりの馬。
が、いかにも規則がうるさく勤務時間も長い。基本俸給が高いだけに、今さらという気がある。
そこでいかにも楽そうなD厩舎へ転出。実際、最初は良かった。何もうるさいことは言われない。
が、そこへ師の子息が調教助手として加わった。以来、仕事環境は一変する。
「馬も知らない小僧が…」と思いながらも体がついていかない。

 
もちろんD厩舎の成績は次第に上昇。上がると同時にさらにうるさい注文がつく。
それで体の不調と過剰労働を言い立ててまたまた転厩。最後に選んだのがA厩舎である。
A厩舎には次第にBのような厩務員が集まり、20あった馬房を維持することができず、
希望をもった働き者の厩務員は一人二人と去り。やがて厩舎は解散するより道はなくなる。


岡部元騎手も調教師の道を選ばなかった。今年、定年を待たず解散した岩城師は、
今度は厩務員にして欲しいと願い出た。苦労して取った調教師免許であるが、
なまじ個人事業主より「寄騎」である方がどれくらい楽なことであるか。

 
調教師に魅力がなくなれば競馬自体も色褪せる。

 
たぶん10名の1000勝ジョッキーは少なくても50歳過ぎまで現役を続行したいと考えているはず。
体力が許す限り乗って、あとは白紙というのが偽らざる心境だろう。
夢の持てない環境に良い競馬は育たない。まして厩舎にしても馬主にしても、
一握りに集中するのは決して好ましいことではない。公正競馬の根幹さえ揺るがす。
こういう時代だからこそ早急に厩舎制度、馬主制度の画期的な改革が望まれる。



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